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更新日: 2021/07/11

専業主婦と「家付きカー付きババア抜き」

専業主婦と「家付きカー付きババア抜き」の写真

掃除機を掛けながら何から連想したのか、専業主婦のことを考えていた。20代半ばに〝主婦〟というものになってからこのかた、〝専業主婦〟という身分になったことはごく短期間を除いてほとんどない。ごく短期間というのは、念の入った性格であるためか、以前も別の〝主婦〟をしていたことがあるからだ。その時は1970年代、専業主婦はまだまだ多かった時代である。

私の母は生涯専業主婦であった。大正生まれである彼女は、一度も勤めというものを経験していない。当時(1960年代)は専業主婦の占める割合は高くて、友達の家に遊びに行っても必ずといって良いほど〝おかあさん〟が家に居たものだった。勤めを持っている母親はむしろ少数派だったのである。そのような環境で成長したせいか、社会人となって〝最初の主婦〟になった時にも、抵抗なく専業主婦に納まっていたのである。

1960年代も後半に入った頃であろうか、「家付きカー付きババア抜き」という言葉が流行語のようになっていた時代がある。若い方には解らないかも知れない。知らない世代のために説明するが「持ち家と車があり、姑と同居しない」という意味である。今では〝抜かれる側〟になっている人間が言うのもおかしなものだが、当時の女性にとって結婚相手の条件としての理想像だったのである。嫁に行く、ということは相手の〝家〟に入ることであって、そこには舅・姑を頭に小姑などが時おり連なって、完全アウェイの環境に入っていくことが長い間、当然のことと思われていた。「家付きカー付きババア抜き」は、完全アウェイの先輩主婦たちを見た結婚適齢期の女性が、そうはならじ、と結婚相手の理想像を描いて出現した言葉であり、その後の核家族の増大と無関係ではないように思う。

70年代に入ると核家族化した人々を収容すべき住宅が不足し始め、巨大団地が建設されるようになってさらに核家族が増加していった。私の住むところからさほど遠くない場所に「高島平団地」という大規模団地が出来たのもこの頃である。で、一体何が言いたいの?、早く仰しゃい、とっとと言いなさい、と責められても物には順序というものがある。

労働政策研究・研修機構の統計によると、1980年には1100万世帯を超えていた専業主婦世帯がその後どんどん減少し始め、同時期に600万世帯だった共働き世帯は右肩上がりに増えていく。それが1995年を交点として反転し、2019年に至って、共働き世帯は1245万世帯、専業主婦世帯は僅か575万世帯に減少してしまった。約40年の間に半減してしまったことになる。「家付きカー付きババア抜き」の理想郷を得たと同時に、その理想郷を維持して行くために〝働く主婦〟が激増していったのかも知れない。

閑話休題。時代の流れというものには、ある一点を境に急激な変化を遂げることがある。その一点となる年には自然現象・事件・事故などが、なぜか重なって起こるようだ。1995年は阪神淡路大震災・オウム真理教関連の諸事件・全日空機ハイジャック・米軍兵士による沖縄での様々な事件などが立て続けに起こり、またマイクロソフト社がWindows95を発売した年だった。それらとは直接に関わりがないにせよ、あるにせよ、この「事多き年」を境に日本人の生活環境も大きく変わっていったと言えるのである。特にインターネットの爆発的な普及が〝個〟の時代の幕を引き開けたのかも知れないと思っている。

個の時代の幕開けとともに、働き方も徐々に変化を遂げていくこととなる。それまでは一旦就職したら定年まで勤務することが常識のように思われていた。それが個々の能力によってより良い職場へ転職することに抵抗を感じなくなり、それが普通になっているのが現代である。そして働き方自体も、正社員・アルバイト・パート勤務・契約社員と選択肢は増えて、フリーターという言葉も耳慣れたものになっている。勤務形態が多様化するとともに、こうしてさえいれば大丈夫、という保証の無い時代になって来ている。まさか、と思う大企業があっけなく倒産する、今回のコロナ禍のような事態が起これば明日の生活さえも不安である。永続勤務していればまとまった退職金が期待できるという時代は、すでに過去のものになったと思う他ない。専業主婦世帯は余程の貯えがないと、満足な老後を送れないということにもなりそうである。ついこの前、老後に必要な金額が提示され愕然としたのは記憶に新しい。

子育て中、保育園へ迎えに行ってその帰り道に買い物をし、帰宅すると右手でハンドバックを置くと同時に左手はエプロンを掴んでいるような生き方をして来た私は、わずかな期間の専業主婦体験では、いまだにその実態が解らない。知人の中にはご亭主の働きだけで生活し、自分は「三食昼寝付き」生活を謳歌している人も居るが、そのご亭主の勤務先は将来、何の障りもなく続いていくという保証は無いし、そんな時代でもない現代では専業主婦稼業は何だか危ういものに見えてくる。と言って、別に専業主婦が良くないなどと思っているわけでは決して無い。それで生活が平和に、家庭が穏やかに過ごせているのなら、赤の他人の私がどうこう言い立てることはないのである。しかし「今」という時代、何が起こるか解らないということを誰もが認識する必要があるのではないか、と思っているのだ。

なぜ、専業主婦が減少していったのか・・・。働き方が変わったからか。女性が働きやすくなったからか。働く場所の選択範囲が拡がったからか。「家付きカー付きババア抜き」の家のローン補填のためか。単に家にいるのが詰まらないと公言出来るような結構な時代のせいなのか。そのどれもが当てはまるようにも思える。専業主婦であろうと共働きであろうと、「明日の約束」は保証するされるものではない、ということを、心の何処かに持っていなければならない時代になったのではないだろうか、と思う。

参照サイト:独立行政法人 労働政策研究・研修機構 「図12 専業主婦世帯と共働き世帯」

https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0212.html(2020年5月現在)

初稿: 2020/05/31

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